攻め続けるポケモン雑記

ポケモン関連のメモ

卒業論文アンケート「アニメ作品の聖地巡礼に関するアンケート」結果公表

お久しぶりです。さきぽけです。

 

先日は卒業論文のための「アニメ作品の聖地巡礼に関するアンケート」を回答・拡散いただき誠にありがとうございます。無事卒論を提出し、卒業が確定しました。

 

その中で「結果がわかったらぜひ教えて欲しい」という意見が多かったのでこの記事で結果の公表とその考察をします。できれば卒業論文をそのまま載せたかったのですが、引用文献の著作権の関係でやめて欲しいと大学事務局に言われました(著作権法的には問題ないはずなんですけどね)。そのため、文献の引用をしない範囲での結果の公表となりますのでご了承ください。また、実際の卒業研究では先行研究との比較研究をメインとして行っていますので、先行研究を引用できない影響で考察内容がわかりにくくなってしまう箇所もあります。

 

参考にした先行研究については文献名のみ最後に記載します。興味のある方は是非読んでみてください。

 

参考資料一覧を除いても1万字を超えていて長いため、結論やフリー回答結果だけ見たい人は目次からジャンプをお願いします。フリー回答の結果は6-8の結論部分で触れています。

 

 

ここから先は卒論執筆内容の直接引用も含めながら書いていきます。そのため以下常態となります。

 

1. アンケートの詳細

収集方法:Google Form

回答期間:2021年10月17日~10月31日

有効回答数:121

 

アンケートでは、「2015年3月まで」「2015年4月~2020年3月」「2021年4月~2021年9月」の3つの期間に分け、聖地巡礼をしたかどうかについて尋ねた。聖地巡礼の変化について考察するため、次項からは期間ごとに分析していく。

 

2. 本記事に登場するアニメ及び聖地の紹介

本記事に登場するアニメのうち一部を聖地事情を踏まえ紹介します。

 

Ⅰ. らき☆すた

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美水かがみ/らっきー☆ぱらだいす

出典:テレビ愛知公式サイト

 

放送年 :2007年

聖地  :埼玉県久喜市鷲宮町

参考研究:山村(2008), 岡本(2009, 2010a, 2010b, 2012)

 

女子高生の日常を描いたアニメ。特に埼玉県久喜市鷲宮町にある鷲宮神社が聖地の中心となっている。インターネットが普及し始めた頃であり、インターネットを利用した情報の展開によって聖地として根付いた。鷲宮町ではファンと地元住民の交流が活発に行われており、2008年からは町の伝統的な行事である土師祭において「らき☆すた神輿」を作成し、ファンが担ぐという催しも行われている。

 

Ⅱ. けいおん!

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©かきふらい芳文社桜高軽音部

出典:京都アニメーション公式サイト

 

放送年 :2009年

聖地  :滋賀県犬上郡東郷町東郷小学校旧校舎群, 京都市

参考研究:岡本(2010a), 上田(2011)

 

軽音楽部に所属する女子高生の日常を描いたアニメ。アニメの舞台は京都市であるが、高校の校舎のモデルは滋賀県犬上郡東郷町東郷小学校旧校舎群である。また、東郷小学校への聖地巡礼が有名であり、ファンの間では「登校」と言われている。東郷小学校旧校舎群はアメリカの著名建築家、ウィリアム・メレル・ヴォーリズが設計したものであり、歴史的美術的建造物としても価値が高い。「らき☆すた」の事例と同様に旧小学校や東郷町のことを好きになる聖地巡礼者もいる。

 

Ⅲ. ガールズ&パンツァーガルパン

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ⓒGIRLS und PANZER Projekt

出典:ガールズ&パンツァー公式サイト

 

放送年 :2012年, 2013年

聖地  :茨城県大洗町

参考研究:石坂ら(2016)

 

戦車に乗って戦うことが「戦車道」と呼ばれ、華道や茶道のように女性の嗜みとされる架空世界において、女子高生が戦車道の全国大会を戦うアニメ。大戦期における世界の戦車が多数出てくることが特徴。聖地は茨城県大洗町であり、アニメによる地域活性化の代表例として紹介されることが多い。作品の舞台となった大洗町東日本大震災による被害が甚大だったにも関わらず、メディアに取り上げられることは多くなかった。そのような事実に制作陣営の杉山潔氏が目を向け、アニメのロケ地として選ばれた。

 

大洗町においては、アニメ放送以前から住民が応援団を作り、アニメの広報活動を行っており、先に述べた「らき☆すた」「けいおん!」とは聖地として盛り上がった過程が異なっている。アニメ放送前ではなく、放送中に開催されたあんこう祭りではアニメ出演声優らのトークショーを行っており、あんこう祭りは過去最多の6.5万人の来場者となった。アニメ放送中には「コソコソ作戦本部」と劇中の作戦名にちなんだ「ガルパン」に関する取り組みを行う組織が商店街や観光協会を中心に結成され、アニメ放送後においてもその取り組みは続けられている。代表的なものにはキャラクターの誕生日会やスタンプラリー、そして商店街各店舗でのキャラクターパネル設置やオリジナルグッズの販売がある。

 

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大洗駅とウスヤ肉店(共に筆者撮影, 2022)

 

ウスヤ肉店Twitter

twitter.com

 

Ⅳ. ハイスクール・フリートはいふり

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© AAS/海上安全整備局
出典:ハイスクール・フリート 公式Twitter

 

放送  :2016年

聖地  :神奈川県横須賀市

参考文献:大石(2019)

 

メタンハイドレートの過剰採掘により日本の多くが海に沈んだという架空世界において、海の安全を守る「ブルーマーメイド」という職業を目指す女子高生を描いたアニメ。旧日本海軍の艦船が多数登場することが特徴。主人公たちが通う高校が横須賀市にあるという設定から、横須賀市が聖地となっている。

 

物語の中心は海上であり横須賀市はあまり出てこないが、横須賀市観光企画課の立案により、聖地としてのPRの取り組みが始まった。市内の飲食店とのコラボや等身大パネルの設置など、「ガルパン」での取り組みに似たものが多い。そのような中「さかくら総本家」という和食店がこのコラボに加わり、コラボメニューの提供を行った。同店入居ビルの5階にある空きスペースを「はいふりコミュニティスペース(以下、HCS)」として開放し、パネルの設置なども行った。それ以後、HCSははいふりファンの交流の場として根付いており、「さかくら総本家」は本編ではアニメに登場しなかったものの、聖地と呼ぶにふさわしい場所となった。また、「さかくら総本家」はアニメの後日談であるOVAや映画においては登場キャラクターの実家のモデルとなっている。OVAや映画では、横須賀市が物語の舞台となっており、「さかくら総本家」以外にも横須賀市をモデルにしたシーンが多くある。横須賀市はいふりコラボの地域活性化の影響を強く受けたものと推察される。

 

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HCS外装(左, 筆者撮影, 2016)とHCS内(右, 筆者知人撮影, 2017)

 

Ⅴ. ラブライブ!サンシャイン!!(サンシャイン)

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©プロジェクトラブライブ!
出典:SUNRISE公式サイト

 

放送  :2016

聖地  :静岡県沼津市

参考文献:毛利(2019), 于ら(2020)

 

スクールアイドルと呼ばれる高校の名前を背負ってアイドル活動を行う女子高生が人気であり、その頂点を決めるラブライブ!と呼ばれる大会が開催されている世界でのアニメ。自分の高校(浦の星女学院高校)の統廃合の危機を救うべく、スクールアイドル「Aqours」としてラブライブ!優勝を目指す少女たちの姿が描かれている。前身となるアニメ「ラブライブ!」が2013-2014年に放送されており、この作品で主人公たちのグループ「μ’s」がラブライブ!で優勝する。「サンシャイン」は時系列としては「ラブライブ!」の後の世界となる。なお「サンシャイン」主人公がスクールアイドルを始めるきっかけとして「μ’s」の映像が出る程度であり、作品同士のつながりは希薄である。

 

また「ラブライブ!」は秋葉原を舞台としており、こちらにも聖地巡礼者は多数いるが、東京を舞台としているためか、コンテンツツーリズムの例として取り上げられることは少ない。それに対し「サンシャイン」は静岡県沼津市を舞台としており、観光客増加の地域への影響が大きく、コンテンツツーリズムの代表例とも言える聖地である。

 

インターネット上には沼津市聖地巡礼に関してのサイトも複数あり、松浦酒店やグランマ上土本店のようにTwitterアカウントで「サンシャイン」ファンへの発信も行っている店もある。

 

松浦酒店Twitter

twitter.com

 

グランマ上土本店Twitter

twitter.com

 

 

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共に沼津市内にて筆者撮影(2019)

 

 

3. 2015年3月までに聖地巡礼をしたことのある人

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図1

 

2015年3月までに聖地巡礼をした人からは38のデータを得られた。訪れたアニメ聖地としては当時人気アニメだった「ラブライブ!」が一番多く、3章で解説した「ガルパン」「けいおん!」と続く。また「その他」に分類される一人のみの回答の聖地も多く、研究がされていないだけで2015年頃には多くのアニメで聖地巡礼の文化があったと言える。

 

次に、聖地巡礼者の特徴に関するアンケート結果を示す。

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図2 図1のアニメにおいて当てはまるもの(複数選択)

 

なお、図2における実際の選択肢は以下のとおりであが、グラフの視認性向上のため簡易化したものを図では利用した。次項意向で示すアンケート結果についても同様とする。

 

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図3 図1のアニメの訪問回数

 

①ネットでの情報発信・②巡礼記念物の観光資源化・⑤旅行情報化世代

 「ガルパン」に関しては回答者5人全員が「巡礼記念物を見た」と回答している。「らき☆すた」では一人からしか回答を得られなかったものの、その一人においても「巡礼記念物を見た」の回答がされている。このことから、巡礼記念物の観光資源化が浸透していたことがわかる。

 

③現地の人やファンとの交流目的

当てはまると答えた人が38人中9人しかおらず、この割合では聖地巡礼者の特徴と呼ぶことは難しい。「らき☆すた」「ガルパン」に限ったとしても合計6人中2人しかいない。このことから、2015年3月以前においては交流目的の巡礼者もいるが、数は多くないと筆者は推察する。先行研究においてはアンケート対象が熱心なファンに限られていたり、土師祭などの地元住民との交流が深いイベントの研究をしていたりしたため、そのような結果になったとも考えることができる。10年以上前のことなので再度調査をすることは難しいが、交流目的の聖地巡礼が当時の聖地巡礼者の特徴と言えるかどうかはより詳細な調査が必要であるだろう。

 

④リピーター

図3より、約65.8%の人が2回以上聖地を訪れていることがわかる。また、アニメごとに見ると、「ガルパン(4人/5人)」「ラブライブ!(5人/7人)」「けいおん!(3人/3人)」で複数回訪れた人が多かった。「ラブライブ!」に関しては秋葉原が聖地で行きやすいため多くなったと考えたが、回答者のコメントに「上京した際に複数回訪れた」というコメントもあり、立地だけが理由ではないことがわかった。逆に「氷菓」の聖地巡礼に訪れた人は3人いたが、3人とも回数は1回であった。リピーターが多くなるかどうかはアニメや聖地ごとの特徴による影響が大きかったのではないかと推察される。

 

4. 2015年4月から2020年3月の間に聖地巡礼をしたことのある人

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図4

 

2015年4月から2020年3月の間に聖地巡礼をした人からは102のデータを得られた。2020年4月以降のデータはコロナ禍でのデータであり、またこの期間では一番多くのデータを得ることができたため、このデータを元に現在の聖地巡礼の考察をする。

 

最も多く聖地を訪れたアニメは「サンシャイン」が最も多く、2位の「ガルパン」の2倍以上の人が回答していた。図4では4人以上が回答したものを載せているが、3人以下の回答であった「その他」が62もあり、2015年までから引き続き多くのアニメで聖地巡礼の文化があったことがうかがえる。

 

次に、特徴に関するアンケート結果を示し、2015年までのアンケート結果と比較して考察する。

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図5 図4のアニメにおける訪問回数

 

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図6

 

①ネットでの情報発信

74.5%の人が行っていたと回答している。また、2015年までと比較しても10ポイント以上増えており、その傾向はより高まっていると考えられる。

 

②巡礼記念物の観光資源化

35.3%しか該当すると回答した人がいない。2015年までのアンケート結果と比較しても非常にこの割合は小さくなっている。記念品を置いてくるという文化は最近では減っていると推測することができる。

 

③現地の人やファンとの交流目的

15.7%の人しか該当すると回答していない。2015年までのアンケート結果と比較しても減っているため、最近であるほどこの傾向は強いと考えられる。回答者からいただいたコメントを見ても、交流に言及している回答は2件しかなく、そのコメントはどちらも「はいふり」に関するものであった。コメントの1つには「2~3回くらい、はいふり聖地巡礼に行っているがいつ行ってもさかくらビル5Fの交流スペースをはじめ変わらない盛り上がりを見せているのは凄いと思う」とあり、「はいふり」という作品においては交流が聖地巡礼の中心となっていることがうかがえる。これに対し、「ガルパン」「らき☆すた」についての回答は7件あったが、「ファン交流の目的があった」に該当するという回答は2件しかない。以上から、交流目的の巡礼は現在の聖地巡礼者全体の特徴と言うことはできないが、アニメによっては根強く交流の文化が残っているものもあると考えられる。

 

④リピーター

図5から、半数の回答において2回以上訪れていることがわかる。2015年までと同様に、アニメ別に調べると「はいふり」において4人中3人が複数回訪れたと回答しているものの、他のアニメにおいてはアニメごとの特徴は見られなかった。2015年までの聖地巡礼においてはアニメや聖地ごとの特徴による影響が大きかったのではないかと推測したが、現在の聖地巡礼においてはアニメごとの特徴はあるものの、それ以上に巡礼者個人による差が大きいと推察する。いずれにせよ、1回しか訪れていない人も多いため聖地巡礼者の特徴とは言えないだろう。

 

また、11回以上と回答している人のコメントを見ると、8人中3人が「日常的によく通る場所が聖地だったため」のように身近に聖地があったとコメントしている。現在の聖地巡礼においては立地と訪問回数には相関がある可能性がある。更なる調査が必要である。

 

⑤旅行情報化世代

79.4%の人が「インターネットで情報収集をした」と回答しており、現在の聖地巡礼者の特徴と言って差し支えないだろう。2015年までの回答と比較しても差はわずかしかなく、聖地巡礼黎明期から変わらず続いている聖地巡礼者の特徴であると言うことができる。

 

5. 2020年4月から2021年9月の間に聖地巡礼をしたことのある人

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図7

 

2020年4月から2021年9月の間に聖地巡礼をした人からは49のデータを得られた。コロナ禍と時期が重なっているため、この結果はコロナ禍における聖地巡礼の変化の考察に用いる。

 

最も多く聖地を訪れたアニメは「サンシャイン」が引き続き多く、「ゆるキャン△」が5件の回答があった。「ゆるキャン△」は女子高生が本格的なキャンプに行くアニメである。アニメ2期「ゆるキャン△ SEASON2」が2021年1月~3月に放送されことに加え、聖地が自然地帯であるため、密になることなく聖地巡礼をできることがその要因として考えられる。

 

次に、特徴に関するアンケート結果を示し、2020年までのアンケート結果と比較して考察する。

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図8 図7のアニメの訪問回数

 

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図9

 

①ネットでの情報発信・②巡礼記念物の観光資源化・⑤旅行情報化世代

図9よりどれも2015年~2020年と同程度のポイントを維持しており、コロナ禍による変化は少ないと考えられる。

 

③現地の人やファンとの交流目的

図9より、わずかであるが2015年~2020年と比較して減少している。今回のアンケートでは母数が少なく、誤差であるか、コロナ禍によるものなのかはわからないため更なる調査が必要である。

 

④リピーター

図8より2回以上訪れた人が約50%と、コロナ禍以前と変わらない。11回以上と答えた人6人のうち3人がコメントで「日常的によく通る場所だった」のようなコメントをしており、身近な聖地に多く足を運ぶ文化も変わらないことがわかる。

 

次に、コロナ禍による聖地巡礼頻度への影響を尋ねたアンケート結果を示す。

 

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図10

 

有効回答数は47であり、わずかに「増えた」があるものの、「減った」「変化なし」がほぼ半数ずつという結果となった。この結果から、コロナ禍による聖地巡礼頻度への影響はゼロではないことがわかる。

 

まず減った原因に関しては、外出頻度が減ったことがあげられる。県外への移動自粛などもあり、聖地巡礼に行きにくくなっていたことは間違いない。聖地巡礼は観光を兼ねる側面もあるため、観光の主たる楽しみの一つである「食」に制約がかかっていることもその要因だろう。

 

また、「変化なし」の回答が半数近くある理由に関しては、オンラインで聖地巡礼をすることが不可能であることがあげられる。聖地巡礼は実際に見ることに意義があると感じている聖地巡礼者が多く、「作中の風景と一致していて目頭が熱くなった」「実際に作中のモデルとなった店等に訪れるのは楽しかった」などの実際に見た・体験したことを思い出として語るものが数多くあった。この感動を味わうためには実際に現地に行くしかないため、「変化なし」の回答が半数近くあったと考えられる。

 

6. アンケート結果から見えてくる現代の聖地巡礼者の特徴

アンケート結果を踏まえ、現在の聖地巡礼者の特徴を分析する。特徴に関しては4で述べたとおりであるが、先行研究と差異が生じている。その理由を分析するにあたり、アンケートで得られたコメントに参考になるものが多かったためそれを示す。

 

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図11

 

これらは全て「一番多く訪れた聖地」に関するコメントから引用・抜粋したものである。コメントは対象期間ごとに回答欄を設け、のべ86の回答をいただけた。その中から「地元が聖地だった」「ついでに行った」のような「気軽に行けたから行った」というコメントを示したものが図11であり、16のコメント(約19%)にそのようなことが書かれていた。コメントをしていないだけで同じような理由で聖地巡礼をしたことがある人がいるであろうことを踏まえると、「気軽に行けるから行く」というのは聖地巡礼における一つの様式であると言うことができる。このことは、②巡礼記念物の観光資源化・③現地の人やファンとの交流目的に該当すると答えた人が少なかったことの理由にもなる。いわゆる「オタク」以外でも聖地巡礼をする人が多いということだろう。

 

以上から、現在の聖地巡礼の特徴を以下のように結論付ける。

 

(1)インターネットを活用する人が多い

 先行研究及びアンケート結果からも明らかである。

 

(2)様々な層の人が聖地巡礼をしている

 「気軽に行けるから行く」という人から11回以上行ったりファンとの交流を楽しんだりする人まで、様々な聖地巡礼をする人がいることがアンケートによりわかった。

 

7. 聖地巡礼の今後の課題

アンケートに「聖地巡礼に関しての意見や想い等ご自由にお書きください」という自由回答の欄を設けたところ、39件のコメントをいただくことができた。その中で一番多かったコメントが聖地巡礼者のマナーに関するものであった。以下に示す。

 

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図12

 

図12は9件寄せられていたマナーに関するコメントを引用したものである(一部不適切表現を削除)。実際に住んでいる方への配慮と最低限のマナーがない聖地巡礼者がいることは今後の大きな課題と言える。対策としては観光協会やアニメ制作会社が呼びかける他、聖地巡礼者一人ひとりがマナーを守る意識をもって聖地巡礼に行くことが必要になるだろう。内閣府の「クールジャパンの推進/コンテンツを活用した地域活性化」(2017)における「君の名は。」の実証プロジェクトでも聖地巡礼者のマナーについては触れられているため以下に引用する。

 

地域との調整・マナー啓発

・観光地だけではなく、一般の住宅街や店舗・施設が「アニメ聖地」の対象となることもある。その場合、例えば騒音等、観光客の増加により地域住民の生活が脅かされる可能性もある。

→今回、クレーム対応への取組はアニメツーリズム協会が仲介することで直接、著者や製作委員会に一報が入らない仕組みを構築。招聘したインフルエンサーへのマナー講習も実施。

→地域住民の生活に配慮したツアールートを形成することが必要である

 

この実証プロジェクトにおいては「アニメツーリズム協会」が仲介役をしているが、一般の聖地巡礼全てにおいて同様に「アニメツーリズム協会」に仲介を頼むことは不可能である。そのため、地域の観光協会地方公共団体との連携が重要となる。また、そもそもクレームを招かないような聖地巡礼を巡礼者が心がけることが最も大切である。

 

8. コロナ禍に関するアンケート結果から見えてくる今後の展望

次にアンケートに寄せられたコロナ禍に関するコメントを示す。

 

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図13

 

図13は5件寄せられていたコロナ禍に関するコメントを引用したものである(コロナ禍に関係のある部分を抜粋)。大別すると、(1)観光収益を心配するコメントと(2)コロナ禍が収まれば聖地巡礼に行きたいというコメントがある。これは(1)(2)ともに今後の聖地巡礼の課題である。

 

(1)観光収益

聖地巡礼による観光収益に依存するとコロナ禍のような事態で経済への打撃は避けられない。そのため、観光収益に依存しない体制、もしくはこのような事態でも観光収益が減らない体制を整えることが課題である。

 

(2)コロナ禍が収まれば聖地巡礼に行きたい

このような思いを持つ聖地巡礼者を誘致するための聖地巡礼観光施策を現時点から考えておくことが課題である。コロナ禍が収まった際にすぐに聖地巡礼者を呼び込めるような施策を立案し、進めることはコロナ禍においても可能である。

 

9. 聖地巡礼者の現状に関する総括

アンケート結果から、「ライト層」と呼ばれる所謂「オタク」でない人たちの聖地巡礼が非常に多いことが分かった。この「ライト層」の特徴としては以下の3点の特徴がある。

 

(1)インターネットを利用する

(2)比較的近場に行く

(3)特別な事情(通学で通るなど)がない限りリピートはあまりしない

 

このような「ライト層」は2015年以前より、それ以後の方が増えている傾向にある。このような層をいかにして呼び込むかが今後の聖地巡礼ビジネスの鍵となるだろう。このような「ライト層」をターゲットにした映画に、愛知県常滑市が舞台となった2020年に動画サイトNETFLIX限定配信で公開された「泣きたい私は猫をかぶる」がある。この映画の聖地巡礼者においてSNSで検索すると、「ライト層」と思わしき人の投稿が多数出てくる。常滑市はもともと写真映えする観光地であるが、そのことがSNS映えに繋がり、「ライト層」の心を掴んだと考えられる。

 

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映画に登場する常滑市内で撮影した「映えスポット」(共に筆者が撮影, 2021)

 

今後は「泣きたい私は猫をかぶる」のような「ライト層」をターゲットにした「コンテンツツーリズム」がさらに増えていくと筆者は予想する。今後も聖地巡礼者についての動向に注目していきたい。

 

 

 

 

以上でアンケート結果公表は終わりとなります。

 

 

10. 卒論感想

予想通りだったことも予想と違ったこともあり、大変興味深い研究でした。高校生の頃から興味を持っていた内容であったためこのテーマで研究することができ、大変楽しかったです。

 

また、この研究を通して聖地巡礼の魅力を再発見することができました。聖地巡礼はやはり素晴らしい文化です。アニメの舞台になった地域が聖地巡礼を通じてファンと結びつくことができます。経済効果があるのはもちろんのこと地域全体の活性化にも繋がります。ファン自身も好きなアニメの舞台を生で見ることで深い感動を得ることができます。

 

しかし、コロナ禍によってこの文化が薄れつつあります。もちろんコロナ対策は万全にしなくてはなりません。その上で、聖地巡礼の文化を我々アニメファンが継承していくべきだと考えます。いつかコロナが収束したその時に、笑顔で地域の人と会話しながら聖地巡礼ができるようすべきだと考えます。現地に行かなくとも、聖地巡礼の文化を途切れさせない取り組みは可能です。例えば「ふるさと納税」で好きなアニメの聖地を支援するのも良いですし、記念品をオンラインで購入することも可能です。私は今年から社会人になるため、ふるさと納税を試みるつもりです。

 

考察でも触れましたが、聖地巡礼時はマナーを守ることがとにかく重要です。「氷菓」の聖地に最近行ったのですが、モデル高校の前に「関係者以外立ち入り禁止」の看板が多数ありました。

 

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画像右端参照 筆者撮影, 2022

 

これは無断立ち入りする聖地巡礼者が非常に多いということです。非常に悲しいことです。「私有地に勝手に入らない」「地域住民が入らないように写真を撮る」このようなマナーは当たり前です。皆さんもマナーを守って楽しく聖地巡礼しましょう。

 

 

11. 謝辞とお願い

アンケートのおかげでより深い考察をすることができました。アンケートに答えていただいた方、アンケートを拡散してくれた方、本当にありがとうございました。卒論の相談に乗っていただいた先輩や添削してくれた友人にもこの場を借りてお礼申し上げます、ありがとうございました。

 

 

アンケート結果を見たいという方全員にこの記事が届くよう、よろしければ記事の拡散をしていただけると大変うれしく思います。よろしくお願いいたします。

 

 

 

12. 参考資料

岡本健 2008 「アニメ聖地における巡礼者の動向把握方法の検討:聖地巡礼ノート分析の有効性と課題について」『観光創造研究』2, 1-13

 

山村高淑 2008 「アニメ聖地の成立とその展開に関する研究 : アニメ作品「らき☆すた」による埼玉県鷲宮町の旅客誘致に関する一考察」『国際広報メディア・観光学ジャーナル』7, 145-164

 

岡本健 2009 「アニメ聖地巡礼の誕生と展開」『CATS叢書 : 観光学高等研究センター叢書』1, 31-62

 

岡本健 2010a 「交流を促進する観光」『観光交流講演会 ~これからの豊郷町の可能性について~』

 

岡本健 2010b 「アニメ聖地巡礼の特徴と研究動向 : 既往研究および調査の整理を通して」『CATS 叢書』4, 91-109

 

上田明日香 2011 「アニメ聖地巡礼の地理学 : 「けいおん!」を事例に」『コンテンツツーリズム研究 : Journal of Contents Tourism Studies, 創刊準備号 』38-62

 

岡本健 2012 「旅行主導型コンテンツツーリズムにおける観光資源マネジメント―らき☆すた聖地「鷲宮」とけいおん!聖地「東郷」の比較から―」『日本情報経営学会誌』 32(3), 59-71

 

岡本健 2013a 「コンテンツ・アニメ聖地巡礼・観光創造 : 『n次創作観光』を手掛かりにコンテンツツーリズムと地域社会を考える」『日本観光研究学会関西支部会 第10回意見交換会. 「関西から観光立国・立圏を考える」』

 

岡本健 2013b 「アニメ聖地巡礼の特徴とその展開 : 聖地巡礼者はコンテンツツーリズムの夢を見るか?」『宗教とツーリズム研究会 第14回研究会』

 

石坂愛ら 2016 「茨城県大洗町における「ガールズ&パンツァー」がもたらす社会的・経済的変化-曲がり松商店街と大貫商店街を事例に-」『地域研究年報』(38):2016, 61-89

 

神山裕之ら 2016 「地域におけるコンテンツ主導型観光と今後の展望 ―大洗の「ガルパン聖地巡礼における成功モデル」『NRIパブリックマネジメントレビュー June 2014 vol.131』

 

大石玄 2019 「横須賀「はいふりコミュニティスペース」にみるサードプレイスとしての可能性」『富山県立大学紀要』29, 21-26

 

毛利康秀 2019 「『ラブライブ!サンシャイン‼』にちなんだ取り組みにおけるファンおよび地元関係者の意識に関する比較研究」『コンテンツツーリズム学会論文集』2019, vol6, 2-14

 

于経天 2020 「アニメの「聖地巡礼」による沼津市の経済効果の分析」『NAIS Journal』14, 8-12

 

レジャー産業資料(綜合ユニコム) 2017 50(2)=605:2017. 2 32-35
大洗町×ガールズ&パンツァー:地域の有志が中心となって既存の取組みを活かしながら、ファンとの交流を育む」

 

アニメ聖地88Walker 2021(アニメツーリズム協会) 2021

 

らき☆すた 公式サイト http://www.lucky-ch.com/

 

テレビ愛知 公式サイト https://tv-aichi.co.jp/

 

ガールズ&パンツァー 公式サイト https://girls-und-panzer.jp/

 

京都アニメーション 公式サイト http://www.kyotoanimation.co.jp/

 

ハイスクール・フリート 公式サイト https://www.hai-furi.com/

 

ハイスクール・フリート 公式Twitter  https://twitter.com/hai_furi

 

ラブライブ!サンシャイン‼ 公式サイト https://www.lovelive-anime.jp/uranohoshi/

 

グランマ上土本店 公式Twitter https://twitter.com/grandma_numazu

 

松浦酒店 公式Twitter https://twitter.com/matsuura_sakaya

 

SUNRISE 公式サイト https://www.sunrise-inc.co.jp/

 

内閣府 クールジャパンの推進/コンテンツを活用した地域活性化 

https://www.cao.go.jp/cool_japan/local/seminar2/pdf/siryou1-1.pdf

 

※参考サイトの最終確認日:2021年1月3日

 

 

 

サムネ用

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筆者撮影, 2022